「臨床の質を上げるための生成AI活用」講義を開催しました

2025年11月14日(金)、リーダー養成プログラムの一環として、島根大学医学部臨床大講堂において臨床実習入門特別プログラム「臨床の質を上げるための生成AI活用」を開催しました。講師には、この山里海医学共育プロジェクトの専任教員であるの香田将英特任准教授が担当し、医学科4年生99名(うち地域枠等学生19名)、医学科5年生1名の計100名が受講しました。
講義の前半では、AlphaFold 3による分子構造予測や乳がん検診における画像診断AIなど、近年の医療AIのトピックが紹介されました。そのうえで、診療現場では「問い(仮説)を立てる力」「自らの判断に責任を持つ姿勢」「患者さんとの対話を通じた意思決定」など、AIには代替できない医療者の強みがあることが強調されました。OSCE・CBTを終え、これから臨床実習に臨む学生に向けて、「AI時代だからこそ、ベッドサイドでしか学べないことを大切にしてほしい」とのメッセージが送られました。
続いて、Evidence Based Medicine(EBM)の5つのステップを踏まえ、臨床で生じる疑問を「Background question」と「Foreground question」に整理しながら解決していくプロセスが解説されました。ChatGPTやGeminiなどの生成AIを用いて文献検索を行う際には、Web検索機能やRAGを活用しつつ、系統的レビュー・メタアナリシスを優先的に探すプロンプトの工夫や、(古典的な)6Sピラミッドを意識した情報源の選択が重要であることが示されました。
一方で、患者情報の取り扱いに関しては、3省2ガイドラインや個人情報保護法に基づき、カルテ画像や検査データをそのまま一般的な生成AIサービスに入力することは厳に慎むべきであると繰り返し注意喚起がなされました。症例をAIに相談する場合は、固有名詞や具体的な年齢・日付・場所などを避け、「多剤併用中の高齢者」「小児・成人・高齢者」といった形に一般化・構造化して扱うことが推奨されました。
さらに、OpenEvidenceやGoogle Notebook LM、スライド自動作成など、学習・研究・プレゼンテーションを効率化する具体的なツールも紹介されました。「生成AIで調べ物や資料作成の負担を減らすことで、医療者はより患者さんとの対話や臨床判断に時間を割けるようになる」と述べ、生成AIを“仕事を奪う存在”ではなく“医療の質を高める補完的なツール”として位置づけました。
質疑応答では、「症例をどこまで一般化すれば個人が特定されないか」といった個人情報保護に関する質問が多く寄せられました。香田先生からは、固有名詞や詳細な年齢・日付・場所などは原則削除すること、実習で得た内容をSNS等に書き込むことは特定につながる可能性があり控えるべきことなど助言が示され、学生たちは熱心にメモを取りながら耳を傾けていました。
ポストコロナ時代の医療を担う学生が、生成AIを適切かつ安全に活用しつつ、AIには代替できない医療者としての力を伸ばしリーダーとして活躍していけるよう、地域医療を牽引する人材育成に取り組んでいきます。